東京国際芸術祭 english
2006年2月10日-3月27日
平成17年度文化庁国際芸術交流支援事業 主催:NPO法人アートネットワーク・ジャパン 東京国際芸術祭(TIF)について TIFアーカイブス
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ドイツ座『エミーリア・ガロッティ』 by 萩原健 (早稲田大学演劇博物館)

 

 ドイツの首都、ベルリンの中心にあるドイツ座(1850年設立)はドイツ語圏を代表する劇場/劇団の一つです。また1906年に開場した併設の小劇場、カンマーシュピーレは、日本初の新劇の劇場・築地小劇場(1924年開場)のモデルです。いわばドイツ座には日本の台詞劇の源流の一つがあるとも言えるでしょう。
  このドイツ座で演出家タールハイマーが活動を始めたのは2001年、『エミーリア・ガロッティ』(以下『エミーリア』)はそのデビュー作です。1965年、フランクフルト近郊に生まれた彼は、85年から俳優術を学び、まず俳優として、97年の初演出からは演出家として、ドイツ語圏各地の市立劇場で活動しています。2000年演出の二作品が同時に01年のベルリン演劇祭(ドイツ語圏演劇の年間最優秀作品を決める演劇祭)にノミネートされて以降、数々の演劇祭に招かれ、また『エミーリア』をはじめ、多くの賞を受賞しています。05年夏からはドイツ座の主任演出家で、制作主幹の一人でもあります。『エミーリア』はベルリンで100回以上上演されていますが、客席はなお満員で、また客演は世界各国で行われ、今季はモスクワとニューヨークで上演されています。
 『エミーリア』の作者レッシングはドイツ文学史上、〈啓蒙主義〉の時代の作家として位置づけられます。18世紀後半、文芸批評や美学論など、彼は様々な分野で当時の偏見や拘束を打ち破る試みをしていますが、戯曲もその一つです。その頃のドイツ演劇はフランス古典劇の模倣が主で、作為的な法則にしばられていたのですが、レッシングはギリシア古典劇や民衆劇、自由な構成のシェイクスピア劇を評価し、新しい手法による戯曲を発表しました。またその背景には、当時ヨーロッパの人口が増え、商業都市が繁栄し、市民階級が台頭してきたという社会の変化もありました。北ドイツの港町、ハンブルクの市民階級の人々が国民劇場を設立し、顧問兼批評家として招かれたレッシングは『ハンブルク演劇論』(1767-69)を執筆、悲劇の主人公が従来歴史上の英雄や王侯貴族に限られていることに異を唱え、市民を主人公にした〈市民悲劇〉の理論を展開します。この理論が実践された作品が『エミーリア』(1772)で、通俗的にもとれるモティーフは精緻な手法で構成され、また舞台は近世のイタリアですが、当時のドイツの封建的な支配階級の腐敗と暴政が分析・批判された内容になっています。
  『エミーリア』はいわゆる古典で、ドイツでは高校の国語の授業などで読まれ、物語はよく知られています。そして古典が現在ドイツの劇場で上演される場合、しばしば現代風に演出されるのですが、単に現代風の衣装や装置にする以上にどんな工夫をするかが問題です。その点、タールハイマーは『エミーリア』の演出で最大級の成功を収めました。「作品に忠実であることはテキストに忠実であることと関係ない」と言う彼は、作品をラディカルに切り詰め、時代や場所を問わない普遍的なものを示そうとします。端役は一切登場せず(『エミーリア』では画家や召使など)、また装置や道具も極力排除されるため、舞台空間はいつもほとんど文字通りの〈空間〉です。このようにシンプル極まりない場を与えられた分、俳優たちの台詞と演技の密度は最大限に凝縮されます。どうぞ今回は存分に「レッシングのエッセンス」(タールハイマー)をお楽しみください。

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