東京国際芸術祭 english
2006年2月10日-3月27日
平成17年度文化庁国際芸術交流支援事業 主催:NPO法人アートネットワーク・ジャパン 東京国際芸術祭(TIF)について TIFアーカイブス
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『4.48サイコシス』
by長島確(翻訳・ドラマトゥルク)


  昨年6月に警察庁が発表した統計資料によると、年間の自殺者が7年連続で3万人を超えた(1998〜2004年)。97年まで2万台前半で推移していた数字が、相次ぐ証券会社の破綻などを経験した翌98年にかけて急増し、以来、年平均3万2千人以上、1日に89人余、1時間に3.7人がみずから命を絶っている。またこの7年間の累計は東京23区のうちの中小規模の区の人口に匹敵し、つまり区ひとつぶんが7年で自殺によって消滅したことになる。

 イギリスの劇作家サラ・ケインが1999年に書いた「4.48サイコシス」という戯曲は、読む者を惹きつけてやまない。謎めいた数字を冠した精神病(サイコシス)を表題とする、美しい作品。だがこの魅力は危険なものでもある。書かれているのは鬱と自殺願望にとりつかれた何者かの声であり、昏迷と明晰さ、怒りと静けさの同居する奇妙な時間である。触れてはいけない何事かの魅力。触れれば必ず傷を受ける魅力。
 またこの戯曲は、演出家をも惹きつけてやまないだろう。わずか数十ページのテキストは、およそふつうの戯曲の体裁をなしていない。配役がないばかりか、一部を除いて台詞の振り分けもなく、段組を多用した特異なレイアウトで、詩のようなことばが散らばっている。どのようなかたちで上演するのか。どのような姿で観客に届けるのか。

 作家はこのテキストを、朝4時48分に目覚めて書いたという。そして脱稿直後の99年2月、自殺。だからこの戯曲は、作家自身の遺書として、ある意味不幸なかたちで世に出ることになった。たしかにこのなかに、心を病んだ女性の物語を読み取ることはできる。発病から自殺へ至る曲がりくねった道。医者とおぼしき人物。けれどもテキストには人数も性別も指定されておらず、ただときおり、シーンを区切るかのように、点線が現れるだけである。まるで喉元に引かれた切取線のように。

 今回わたしたちは、このテキストの鋭利な刃物のようなことばを、いまの日本の社会に突き立ててみたいと思った。特別な個人の伝記でもなく、どこかよその国の物語でもない、矛盾や混乱を含んだひとつの社会そのもののような姿を与えたいと思った。中高年のうつ、小中学生のリストカット、ネット自殺、孤独死、格差社会…そこから漏れ聞える何者でもない者たちの声。この物騒な戯曲にはまちがいなくそれだけの力がある。


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