東京国際芸術祭(Tokyo International Festival 以下TIF)は、1988年に「東京国際演劇祭'88池袋」として歩みはじめ、2002年に「東京国際芸術祭」と改称し、今回で13回を迎えます。国際的視野に立ったプログラムを展開する芸術祭として、TIFは大きな役割を果たしてきました。 TIFは、海外作品の招聘や国際共同製作、地域で活躍する劇団を紹介するリージョナルシアター・シリーズなどの「公演部門」ほか、アートの普及活動の一環として、若者にアート・アーティストと触れ合う機会を提供する「コミュニケーション・プログラム」、次世代を担う芸術監督、海外制作者とのネットワークを形成を図る「IVP インターナショナル・ヴィジターズ・プログラム」の3部門で構成されています。これらのプログラムを組み合わせて、2月から3月まで、2ヶ月間のフェスティバルを開催いたします。
東京国際芸術祭を開催するにあたり、日本社会にいることで知らずに入り込む不思議な先入観をぬぐい去ることを重要な手続きと課してきました。それはなかなか困難なことで、ぬぐい去ると同時に妥協する、つまり「落としどころを見つける」という妙な習慣を無視しては残念ながらこのフェスティバルも存続させることはできません。今回のフェスティバルはまさに存続させることを最大のテーマとしているといえます。
アジアでは、古くから香港、シンガポール、最近は上海、ソウルで大きなアートフェスティバルが開催されています。東京には、フェスティバルは必要ないのでしょうか。東京国際芸術祭は、NPO法人アートネットワーク・ジャパンという小さな民間非営利組織がすべての責任をもって運営しています。国や地方自治体、企業の恒常的な大きな助けなくしてはもう先に進むことはできません。東京国際芸術祭2007は、それを訴えるために開催するといっても過言ではありません。
長い間東京国際芸術祭の核をつくって来たリージョナルシアター・シリーズ(財団法人地域創造共催)は今回から大きく模様替えしました。リーディングとプロデュース公演を軸にしながら、地域の各演出家にアドバイスをする一線の演劇人を配置するという新しい取り組みに着手しました。国際交流基金と共催してきた中東シリーズは今回で4回目となりますが、ひとまずこれが最終回で、これからはなんらかの形での継続を模索することになります。この中東シリーズにより東京国際芸術祭はアラブ圏と強いネットワークをつくることができました。
アメリカ戯曲のリーディングは2回目となり、少しずつ進化すると思われます。先進国の演劇の大きなテーマとして「ジェンダー」があることは明確ではありますが、今回はもう少し多様な戯曲が登場することを期待しています。
日本の演劇は、私たちの運営する「にしすがも創造舎」のレジデント・アーティストである倉迫康史氏、阿部初美氏、高山明氏のものをプロデュースすることにしました。稽古場のあり方、ドラマトゥルクの意義などいくつかの問題意識を共有しながらの演劇づくりとなります。
さて、東京国際芸術祭2007には、ベケット生誕100年を記念して結成された実行委員会(代表扇田昭彦氏)が主催する公演が組み込まれています。現代演劇の大きな柱であるベケットを讃える行事は世界各地で開催されています。私たちも同様の考えで、むしろ東京国際芸術祭2007はベケットに捧げられているといってもよいでしょう。特にアイルランドからドルイド・シアター・カンパニーを招聘します。またベケットがラジオドラマとして書いた戯曲を再現し、公開収録するとともに、ネットラジオにて配信するなどの計画が盛り込まれています。
このように東京国際芸術祭 2007は少し複雑な組み立てになっていますが、その理由を明らかにするには残念ながらもう少し時間が必要というほかありません。
東京国際芸術祭ディレクター 市村作知雄
池田弘一 |
アサヒビール株式会社代表取締役会長兼CEO |
扇田昭彦 |
静岡文化芸術大学教授 |
永井多惠子 |
財団法人せたがや文化財団理事 |
林省吾 |
財団法人地域創造理事長 |
福原義春 |
株式会社資生堂名誉会長 |
簗瀬進 |
参議院議員・音楽議員連盟副会長 |