東京国際芸術祭2004 10回記念ユーラシアフェスティバル
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ヤーン・デュロヴチーク インタビュー


乗越たかお(作家・舞踊評論家)

スロヴァキアのパフォーミング・アートのスター的存在のヤーン・デュロヴチーク。3月には代表作である『ロメオ+ジュリエット』を持って来日する。それに先立ち、1月には現代舞踊協会が彼の『火の鳥』を上演した。それに合わせ来日したヤーンに話を聞いてみた。

ヤーン・デュロヴチーク
ヤーン・デュロヴチーク
photo: PETER BRENKUS

--- ヤーンさんご自身のことを聞かせてください。肩書きは振付家でいいのでしょうか。
「そうですね。私は映像も作るし、ミュージカルの演出もします。ボブ・フォッシーが理想なんですよ(注1)。でも私のルーツは子供時代にやっていた民族舞踊です。
14歳でモダンバレエを始めました。じつはその頃、初めて作った振り付け作品のタイトルが『ヒロシマ』だったんです。出来はともかく(笑)、12人で踊る作品で、この頃から振付をやりたいと思っていましたね。その後、16歳から3年間、スロヴァキア国内の振付コンクールで連続優勝し、かなり話題になりました。おかげでプラスチバ芸術大学は無試験で入れてくれましたよ」

--- その後ベルギーへ行かれていますね。
「18歳の時に優勝したコンクールの奨学金でアントワープのダンス学校へ留学し、一年半ほどいました。それからアムステルダムへ渡ったんですが、この頃ピナ・バウシュ、イリ・キリアン、モーリス・ベジャールなどが好きで、よく見ましたね。ベルギーでもローザスやヴィム・ヴァンディケイビュスは、まだそんなに有名ではありませんでした。
  アムステルダムではHFダンス・シアターに入り、ソリストになりました。しかしどうしても自分で作品を作りたいという気持ちが止みがたくなってきて、22歳のときスロヴァキアに帰ったんです。アムステルダムでは家もあり、それなりの収入もありましたから、周囲の人は驚いていましたけれども」

--- その頃のスロヴァキアはダンスを作るのに良い状況だったんですか?
「ほど遠い状況でしたね。でも、なにもかもゼロのところから始めたいという気持ちもあったのです。それで帰国してすぐ『トルソー』というダンスカンパニーを作りました。幸いなことにいくつか作品を作ったところで注目を集め、私はスロヴァキアの国立劇場の振付家に最年少で採用されました。ストラヴィンスキーの音楽が大好きなので、『春の祭典』を皮切りに彼の全ての曲で作品を作りましたよ」

公演
photo: PETER BRENKUS

--- 今回の『ロメオ+ジュリエット』についてお話ししていただけますか。
「若い頃、シェイクスピアを読んだときには、なんてつまらない話なんだろうと思っていました。でもバズ・ラーマン監督の映画『ロミオ+ジュリエット』(96年。注2)を見て、考えが変わったんです。原作をあらためて読み直してみると、じつにいろいろな発見がありました。一番驚いたのは『ピュアな愛情を持っている者は死に、生き残っているのは憎しみを持っている者ばかり』ということなんです。そこで私は 『ロミオとジュリエット』を『憎しみについての物語』として作ってみようと思ったんです」

--- あなた自身もディレクター役で登場しますね。舞台に上がり込んで、セリフもある。しかもけっこう長い(笑)。
「これはどんな『ロミオとジュリエット』を作るのか、を示す舞台ですからね。舞台上には役者/ダンサーがいて、『ロミオとジュリエット』を上演する相談をしているところから始まります。ダンサーたちも膨大なテキストを暗記して、演技をしなければならない。しかしこの作品では、シェイクスピアのセリフは一行も使っていないんですよ。またバレエで有名なプロコフィエフの曲も使っていない。両方とも好きすぎ
て使えない(笑)」

--- ダンスシーンも要所要所で実に効果的に展開されていきます。そしてラストの「死の描き方」は、かつて見たことのない、斬新な美しさを持っていますね。
「この舞台の中で私は演出家として、登場人物の生殺与奪権を握っている、つまり神のごとく振る舞うわけです。舞台では『役の上では生きているが実際には死んでいる』、またはその逆もある、といった多層的な造りになっています」

--- 映像の使い方も独特ですね。顔のアップで出てくるのは両家の代表と牧師。彼らは登場人物に様々な影響を与えるにも関わらず、自らは絶対に傷つけられない位置にいる。彼らが見守る先で、人々は愛し合い、死んでいく。
「その通りです。権威・権力を持つ彼らには決して触れることができない。他にもニュースキャスターやロックスターなど、スロヴァキアの本当に人気のある人々を起用しています」

--- 憎しみがテーマの『ロメオ+ジュリエット』ですが、純粋な愛を謳った『火の鳥』の翌年に創られていますね。
「人間の内面は多様なものですから(笑)。『一番好きな自分の作品は何か』という質問は嫌いなんですが、もしそう聞かれたら、『ロメオ+ジュリエット』がそうだ、と答えるでしょう。それくらい、隅々まで自分で納得している作品なんです。この作品を日本の皆さんにお見せできるのを楽しみにしています」

--- ありがとうございました。


(注1) フォッシーは映画・演劇・テレビ各界の最も権威ある賞を全て受賞するという偉業を成し遂げた。現在もまだその記録は破られていない。
(注2)「アロハシャツを着たロミオが拳銃をブッぱなすのだが、セリフは原作のまま」という演出が話題になった。レオナルド・ディカプリオはこれでベルリン映画祭の主演男優賞を受賞。今回の作品のタイトルが「&」ではなくて「+」なのは、映画のタイトルと同じ。「プラス」にも「十字架」にも見える。

>>ヤーン・カンパニー『ロメオ+ジュリエット』公演情報



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