『素晴らしい事が終わるとき』稽古初日
2007年東京国際芸術祭、最初に幕を上げるアメリカ現代戯曲リーディング『素晴らしい事が終わるとき−歴史とわたしとバービー人形』。
その稽古が1月22日(月)にしすがも創造舎にて本格スタートしました。初回の稽古は演出家の工藤千夏さん、ドラマトゥルクの長島確さん、翻訳家の目黒条さん、そして大崎由利子さんはじめスタッフ・出演者の方々が一堂に会し、既に何度も推敲を重ねてきた台本を読み合わせながら翻訳のニュアンスを微調整し、作品のイメージを共有する、という作業から始まりました。
10歳の「わたし」がバービーのイブニングドレスを買ってもらった日、アメリカとイランの間でSOFA(駐屯軍地位協定)が締結される。バービーのドレスを着せ替えながら「わたし」が語り始める、アメリカが中東に抱いた石油獲得の野望と9・11への道のり――
くしくもニューヨーク留学中に2001年のニューヨーク同時多発テロを現地で体験なさった演出家の工藤さんは、テロ後のアメリカ人の反応にショックを受けたといいます。
「あの時彼らが抱いたのは、『どうして自分たちのようなピュアな人間が攻撃されたのだ』という強烈な被害者意識だった。あの事件が、遡ればどういう経緯や原因があって起こったものかなんて考えようとする人は誰もいなかったんです。あの時、ああ、やはり自分は外国人なのだと痛感しました。」
日本に帰国後、工藤さんはシェリー・クレイマーのWhen Something Wonderful Ends(『素晴らしい事が終わるとき』原題)に出会います。
「今のアメリカの姿を憂いているアメリカ人アーティストもいるのだということを、この戯曲で初めて知ったんです。知って良かった、と思いました。だから、それを発信しようとしているアーティストがいることを、日本の観客にも伝えたい――」
「心の中に少女がいる人には、この作品すごく伝わると思うの」と夢見るような瞳で語る工藤さんに、バービー人形を持った無垢な少女とストイックなまでに語りの手をゆるめない女性作家シェリー・クレイマーの姿が重なります。
アメリカでこの戯曲が初演された時、皮肉とユーモアに富んだ軽妙な語りに客席は爆笑の渦だったのだそうです。たとえるなら、渡辺えり子さんが機関銃のように喋りまくるトークショーのような。アメリカの石油問題や9・11を語って笑いが起きる光景はちょっと想像しにくいのですが……。ましてや出演するのはシックなマダムという形容がぴったりの女優、大崎由利子さん。
その傍らには「日本人の観客にもクスリと笑っていただける翻訳に」とクールな微笑を崩さない翻訳家の目黒条さん。
稽古初日終了。この舞台、全く「予測不可能」です――
舟川絢子