atomic

« [2/8掲載]〜六ヶ所村報告6〜夜 | メイン | [2/8掲載]〜六ヶ所村報告4〜大平洋 »

〜六ヶ所村報告5〜ウニ  阿部初美

「青森の人はやさしいから」六ヶ所に発つ前、仙台の俳優、米澤牛氏からそう聞いた。
食堂にいたおばちゃんは、食事について親切にあれこれおしえてくれて、最後にガラスケースの冷蔵庫から、ウニを殻ごとひとつお皿にのせて手渡してくれた。ウニは大好物なので、大喜びだった。
「このへんでとれたんですか?」と聞くとそうだという。板さんが、夕食のためにとってきてくれたそうである。
誰でもとっていいのか聞くと、ちゃんと決まりがあって、その決まりに従って取らなければいけないということだった。愚問であった。
食堂には、おばちゃん、それからカウンターごしに口数の少ない年輩の板さん、それに「同僚」氏が、フロントと食堂をせわしなく行き来する姿。
背を向けて一人食事していた青年は、私が食事の用意を終えた頃には、もう食事を済ませてそそくさと部屋にもどっていってしまった。「絶対話しかけてくれるなオーラ」を強く発していた。
それからまた一人若い20代と思われる男がやってくる。この人も同じようなオーラを発している。それからまた一人、20代くらいの男性。
この人は、明るく、にこにこしている。おばちゃんや板さん、同僚氏ともなじみという感じだ。
話しかけるならこの人だろうと思い、チャンスをうかがっているとさらに、作業着姿の中年男性二人が食堂にやってくる。
この二人は仲間といった印象だが、これも口数少なく、どこか閉じた印象をあたえる。プロの職人といったふうだ。この二人は絶対に他の人と目をあわせようとしない。
みんな黙ってもくもくと食べている。そのうち明るい青年も食事を済ませて去っていってしまった。食堂はシンとしている。
時々、おばちゃんや同僚氏に話しかける私の声だけがやけに響く。
たぶん、ここにいる人たちはみな、再処理工場に何かしらの関係を持っているのだろう。それについては何も語りたくない、わずらわしいことに関わるのはごめんだというふうな雰囲気。
この場で何か話をききだすのは無理だ。そう感じた。
同僚氏に、泊のほうには何か観光できるところあるんですかとたずねた。
彼は「滝とか」などと、あまり気のりしない様子で答える。
「バスで行けたりするんですか?」続けて聞くと、「いい男つかまえて連れてってもらうんですよ」と小声で言う。ここで男をつかまえろというのだ。独身男性が多いのだろう。
食事はおいしかった。ウニは好物なので最後に残しておいた。
新鮮なとれたてのウニはおいしかった。「おいしかったです、ごちそうさまでした」というと、みな、ちらりと笑顔を見せた。泊まり客の中には、放射能汚染を気にして食べない人もいるんだろうな。
ここでのインタビューは失敗に終わる。
明日は泊に行きたい、でも同僚氏の態度からすると、バスで行くのもたいへんそうだった。
昼間ここに着いてすぐ、自転車を貸してくださいと言ってみると「一台、あることはあるんですが、パンク中でして...」と断られた。
ここは足がないと本当に動きがとれない場所なのだ。
唯一、この宿が送迎してくれるのは、工場とPRセンターのみ。
仕方ないので、明日もPRセンターまで送ってもらうことにする。
食堂を出てフロントでお願いすると、フロントの男性は、「かしこまりました」と承知してくれた。

(つづく)

TIFポケットブック
もくじ
mark_tif TIFについて
mark_sugamo 巣鴨・西巣鴨
mark_ort 肖像、オフィーリア
mark_america アメリカ現代戯曲
mark_atomic
mark_portb 『雲。家。』
mark_ilkhom コーランに倣いて
mark_familia 囚われの身体たち
mark_rabia 『これがぜんぶエイプリルフールだったなら、とナンシーは』
mark_druid 『西の国のプレイボーイ』
mark_becket ベケット・ラジオ
mark_regional リージョナルシアターシリーズ
footer