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〜六ヶ所村報告6〜夜  阿部初美

食事を終えて部屋に戻ると窓の外は真っ暗だった。外の駐車場の街灯や各部屋の明かりが林を照らしている。右手には小高い山が黒々としていた。
網戸には、夏の田舎の夜らしく、大小の蛾がたくさんはりついている。
こうこうとした蛍光灯の電球が、タタミや古い押し入れ、真夏にもかかわらず敷かれた厚い布団を不必要に照らす。昼間、この布団に座っていたらダニにさされた。野生のダニかと思うほど、ひどい痕が残った。
「節電にご協力ください」と書かれた小さな紙が、ユニットバスの電気のスイッチのところに貼付けてあった。
テレビをつけると、少し気がまぎれた。地図や、原発PRセンターでもらった資料や、時刻表を見て明日の予定を考えるうち、時間が過ぎた。
ニュースでは、六ヶ所の再処理工場から放射能がもれる事故があり、修理と点検をすませ、試験運転が再開されると報道していた。
どこからか、人の話声がきこえる。
男性の声だ。窓にちかづくとどうも下の部屋のようだった。
しばらく聞き耳をたてていた。相手の声が聞こえないので電話だろう。
内容は聞き取れない。遠慮のない声の調子で、相手は家族ではないかと思われた。男は長い間、話し続けた。
闇の向こうからは、荒い波の音がきこえている。空気はだいぶ涼しくなったし夜もふけていた。
寝るのに電気を消すのがためらわれたが消した。
布団が厚すぎる。おまけにダニもいる。でもかけなければ風邪ひくかも。
ストレスにみまわれながら、目を閉じていた。
車が駐車場に入ってくる音がした。こんな時間に誰がやってくるのだろう。また窓から見下ろすと、車から小さな子供を連れた家族が降りてきて、宿の中へ入る様子が見えた。なんの人たちだろう。

そうこうするうち、うとうとしていた。
突然、目が覚めた。なにかおかしい。
嫌な予感がした。蒸し暑い空気が止まっている。気がつくと波の音がやんでいた。胸騒ぎがした。暗い部屋を見回すと、なにかの気配がする。
耐えられなくなって飛び起きて電気をつけた。しらけた光がまたこうこうと照る。時計を見ると夜中の2時半。
電気をつけても怖さが止まらない。
不必要に明るい部屋で、どきどきしながら、目を閉じ、やっと疲れて眠くなった頃には、空は白んで、また波の荒い音が鳴り出していた。

(つづく)

TIFポケットブック
もくじ
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mark_sugamo 巣鴨・西巣鴨
mark_ort 肖像、オフィーリア
mark_america アメリカ現代戯曲
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mark_portb 『雲。家。』
mark_ilkhom コーランに倣いて
mark_familia 囚われの身体たち
mark_rabia 『これがぜんぶエイプリルフールだったなら、とナンシーは』
mark_druid 『西の国のプレイボーイ』
mark_becket ベケット・ラジオ
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