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福島の原子力発電所 内部美玲(東工大大学院・建築科)


福島第一原子力発電所のサービスホールで原子炉建家の断面模型を見せられたときの衝撃は大きかった。建築物としては明らかにおかしな大きさと形、壁の厚みをもった巨大魔法瓶(ウランの核分裂を行う場所)がフツウの箱型の建物のど真ん中に配置されている。イチゴ大福みたいなかんじだろうか。不自然で、そもそも何かが間違っているような気がした。ものを作るときの順序が逆転してしまっている感じだった。

実際に発電所の敷地内を案内してもらうと、その模型でみた原子炉建屋は、淡いブルーでペイントされた、プレハブ倉庫でつかわれるような簡素な素材で覆われた無味乾燥な箱であり、放射能で満たされたものすごく危険なものを中にもっていながら、「ここには何もありません」ととぼけた表情をしているように見えた。数分前に目にした22mの巨大魔法瓶なんて、外からでは全く想像もできない。

そのとぼけた箱の横には高さ100mの煙突がある。煙を出すような施設ではないのに、なぜ煙突があるのか尋ねたところ、原子炉建屋内の換気のためだという。確かに、放射能漏れの恐れがあるため、建屋に窓をつくることはできない。納得すると同時に異常さを思い知る。日常生活であれば窓を開ければすむ換気が、窓を作れないことで、こんなにも大きな新たな構築物を生んでしまうのだ。

発電所敷地内にはその他に、タービン用、廃棄物貯蔵用など何個かの箱が並び、遠くまで続く送電線を鉄塔が支えている。この電線は東京まで続いているのか、という質問に「そりゃそうだ」という答え。当たり前のことではあるが、私たちの目に見えないものが、空中をとびまくっている今の時代、電気を250km先の東京まで物理的につながった線で送っているという事実は、私をほっとさせた。というのは、おそらく、ものとして、ここでは送電線という形におちたものは少なからず実感できるからだろう。福島で作られた電気は送電線というホースを通って東京の各家庭に届くのだと。

こんなふうに、原子力発電所内には日常私たちが目にする建築物とは全く異なる原理でつくられた、異様な建築物が建ち並んでいた。敷地自体は人の住む町から車で7分とやや離れている。しかし、敷地内には親子連れを2回ほど見たし、地元の人のために無料で映画鑑賞会等もひらいているようだ。丁寧に説明をしてくれた東京電力のお姉さんは、地元の高校を出てすぐここに就職したのだという。やっぱりここも、人が運営し、人が暮らしている場所にあるひとつの施設なのだ。

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