Directed by Daniel Velonese 演出:ダニエル・ベロネッセ 溺れる男 Un hombre que se ahoga

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About the work 作品について

ブエノスアイレスの巨匠、演出家・劇作家のダニエル・ベロネッセは、チェーホフの作品を90分に凝縮し、音楽や照明、衣装やメイクを排して舞台をつくり、役者を舞台上に「配置」する既存の演劇手法にとらわれず、過剰なまでに「自然」な空気を生み出している。―中略―この作品の役者の動きはすばらしく、その「振り付け」において特徴的な作品だ。ステージ上の幾つかの家具ですら、役者と共に躍動感のある動きを見せる。
 [ 2007年7月19日 New York Times]

『溺れる男』は真の芸術だ。真の芸術とは、人を夢中にさせて、決して退屈させない。観客は劇が始まって2分後には、性別が逆転した登場人物のリアリティに引き込まれているだろう。[2006年10月28日 EL PAIS ]
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ストーリー

登場人物の性別が逆転された、現代版・チェーホフの『三人姉妹』 登場人物の性別が逆転された、現代版・チェーホフの『三人姉妹』。プロゾーロフ家の三人兄弟オリガ、イリーナ、マーシャは、一年前に母親が亡くなって以来、かつて育ったモスクワへ帰ることを夢見て、憂鬱な日々を過ごしていた。プロゾーロフ家には砲兵隊の女軍人たちが出入りし、やがて三人兄弟の人生と複雑に絡み合ってゆく。一方、唯一の女姉妹アンドレイは、大学教授を志すが次第に没落し、夫のナターシャは三人兄弟に不穏な抑圧を与える存在に変貌する。不倫の恋に落ちるマーシャ、そして愛の無い結婚を選んだイリーナ。運命に翻弄され続けるチェーホフの登場人物たちに重なる、現代人の姿とは・・・?

作品解説

鮮烈に暴かれる日常、チェーホフの性別逆転劇。 『三人姉妹』の登場人物の性別が入れ替わっていること。一見荒唐無稽なこの設定は、「前提を疑う」ことを見るものに問いかけている。ある種のパロディーのようにどこかユーモラスでもあるこの転換は、性別さえも超えて、絶望に溺れ、希望を追い求める人々の、あるがままの姿を描き出す。
ごくありふれた日常に起こる些細な出来事は、時と共に過ぎ去ってゆく。一方でその不協和音は、日々の生活の中に織のように積み重なっていく・・・。
チェーホフ四大劇の一つ『三人姉妹』の文脈を根底から覆すという問題提起が、今日において、いかにアクチュアルな発言であり得るか、演出家ダニエル・ベロネッセは証明してみせる。

舞台と現実の境界をそぞろ歩く、登場人物たち。 アルゼンチンのストリートから飛び出したかのような、俳優たちの身体。照明や音響、衣装などの演出効果を可能な限り排除したこの作品には、現実との連続性をもった空間が立ち現れる。
時に激昂し、時に傷つきやすい登場人物たちは、同時多発的に激しい身振りや感情の起伏を伴ったダイアローグを応酬する。12人の俳優は、演技をしていない時でさえ、舞台上に並べられた椅子に腰をかけ、そこに存在している。静劇と呼ばれるチェーホフの原作とは一線を画し、既存の演劇スタイルに捉われない本作は、「いかに生きるべきか」というメッセージを真っ向から突きつけている。
作品タイトルについて
本作『三人姉妹』の翻案、『Un hombre que se ahoga』(溺れる男)は、ダニエル・ベロネッセのチェーホフ・プロジェクトによる作品である。この『Un hombre que se ahoga』の対となる作品として『ワーニャ伯父さん』の翻案、『Espía a una Mujer que se Mata』(自殺する女)がある。これらのタイトルは、16世紀の画家(版画家)Urs Graf(スイス) の「Un hombre que se ahoga espía a una mujer que se mata」(溺れる男と自殺する女 原題:Ertrinkender und Selbstmörderin)という絵画のタイトルから着想を得られたものである。