パフォーマンスメニュー

ABOUT THE WORK 作品について

「アヴィニョンが待ち望んでいた演劇-フェスティバルを揺るがす舞台、プログラムの流れを変える作品、とにかく面白い。」(Le Monde)
「模型の世界が大きなスクリーンに映される映画になり、命を吹き込まれて観客の前に立ち現れる。」(Theater der Zeit)
「夜の劇場に神秘的な厳粛さが漂い、今日のアートが喪失したと思われる全てのものが取り戻される。」(Der Landbote)

ストーリー

Mnemopark  記憶の公演 「ムネモパーク」は、ドイツ語で「記憶の公園」を意味する。4人の出演者は、役柄ではなく実際に第二の人生でミニチュア模型作りに没頭する老人たち。彼らは自身の人生を舞台上で語る一方で、統計に基づいたスイスに関するデータを観客に提供する。牧場の牛が車よりも二酸化酸素を多く排出すること、農業に対する補助金の額とその使途・・・。それらと並行して、あるインド映画の物語が語られる。インドがカシミール地方で紛争を抱えて以来、インド映画はスイス山脈を撮影地として頻繁に使用してきた。そのため毎年多くのインド人観光客がスイスに訪れる。スイス生まれのシュテファン・ケーギが個人の記憶と経済、そして他者の視点によって、祖国を政治的に描き出す。

作品解説

シュテファン・ケーギが2005年バーゼル劇場の要請に応じ、製作した作品。政治的視点を持つドイツ語圏の作品を紹介する、フェスティバル・ポリティーク(ベルリン)の審査員賞を受賞した他、フランスのアヴィニョン演劇祭、フェスティバル・トランスアメリック(モントリオール)など世界の演劇祭や劇場に招待され、好評を博している。

地元の老人たちと語る、祖国スイス 4人の出演者、マックス・クラス、ヘルマン・レール、ハイディ・ルイーズ・ルーデヴィッヒ、ルネ・ミューレターラーは、幼少期より鉄道や模型に魅了され、現在は鉄道模型サークル「Modulbau-Freunde Basel」(略称:MFB)で、87分の1の模型作りに勤しむ。MFBは1989年に結成し、現在25名程のメンバーで構成されている。多くのスポンサーに支えられ、メンバー内の活動に留まらず、地域住民が自由に模型を楽しめるオープンハウスイベントも毎月開催している。
彼らは創作の初期段階から、ケーギとディスカッションを重ね、舞台装置の製作にあたった。舞台上での模型の配置に関しても、ケーギは専門家としての彼らの決断に多くを委ねている。

交錯する個人と国家のドキュメンタリー 舞台装置の鉄道模型には小型カメラが搭載され、ミニチュアのスイスの風景をスクリーンに映し出す。また出演者自らもカメラを担ぎ、舞台上の出来事を撮影していく。“街の中でアートプロジェクトを行った際に、国が個人を監視する、監視カメラに興味を惹かれた”と語るケーギが、個人が国にカメラを向ける逆転現象を起こす。個人のまなざしが、定着した国家イメージを鋭く切り崩し、個人と国家のドキュメンタリーが、舞台上で交錯する。

伸縮し、やがて消失する境界線
虚構と現実、撮影者と被写体、映像と舞台、若者と老人、個人と国家・・・。異質で対称的なものは、優劣や単純な二項対立では描かれない。それらは複雑に絡み合い、目の前に広がる光景がフィクションかドキュメンタリーかさえ、わからなくなってしまう。 パフォーマンスが進むにつれて、様々な境界線が次第に伸縮をはじめ、やがて消失していく。そして立ち現れたボーダレスな世界が、日常の中で当たり前の様に存在するパワーバランスを崩し、社会の多面性や複雑さが浮かび上がる。